第4回例会報告:「目利きになろう! ~韓国ソフト事情紹介とディスカッション~」

第4回例会報告

7月21日に第4回システムイニシアティブ研究会(例会)が開催されました。
今回のテーマは「目利きになろう!~韓国ソフト事情紹介とディスカッション」。

最初に、木内会長から今回の例会の趣旨説明がありました。過去3回のユーザー主体開発事例と趣をかえて、あえて韓国のパッケージソフトウェア紹介の企画をしました。目的は個々の製品を知ることではなく、次の2つが目的です。

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1.韓国のソフトウェア事情を知ること(ユーザーとベンダーの関係の違い)

2001年、同じ年に、韓国では「電子政府法」、日本では「IT基本法」ができました。現在はご覧の通り、韓国は優れた電子政府を作って行政の業務改革を行い、国民サービスを向上させた。日本より10年ぐらい先に進みました。昨年の国連の評価でも、韓国は1位、日本は17位でした。韓国は、国策として電子政府をつくって輸出もしているし、パッケージも優秀なものが出ている。しかし、最初から韓国のソフトウェアが優秀だったかというと、そうではないと思う。1997年の通貨危機の混乱の後、産業振興政策の下でベンチャーがたくさん起業し、競争で磨かれてきたのだと思います。そういう環境の中で、ベンダーとユーザーの関係は、日本とどう違うのかを、共有したい。

2.日本のユーザーは、ベンチャーの製品を自身の目で見て判断しているか、自身をふりかえってみること

日本のユーザーは海外のパッケージどころか、日本のベンチャーの製品積極的に入れていないのでは。日本のベンチャーも苦労している。韓国のベンダーの方々も日本で営業していると「日本企業での導入実績はありますか」という質問を受けているでしょう。ユーザー自身の目で、必要なものを導入できる目利きになることが、パッケージの部分での「システムイニシアティブ」ではないか。

ということで、まず韓国のソフトウェア会社3社からプレゼンがありました。

icon-check-square-o イーコーポレーションドットジェーピー:Report Designer(開発・エムツーソフト)

簡単な操作(Microsoft Wordと同じ)で帳票をデザインできるレポートデザイナー。韓国の帳票でも、日本と同様に罫線が多様されるそうですが、全体の90%の帳票が、スクリプトなどを使用しなくても作成できるそうです。
基本的には1日の教育コースで、ユーザー自身が開発できるようにしますが、開発をスピードアップしたい場合や複雑な帳票開発の場合に、開発業務も受けています。
日本では大きなシェアを持っている企業があり、競合することも多いそうですが、機能や性能の問題ではなく知名度で負けることが多いとか。それでも、数社でその競合に勝って導入されいるそうです。

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エムツーソフト 嚴さん

icon-check-square-o GHソリューション:Prism BCP(開発・LIGコンサルティング)

PrismBCPでは、事故や災害があった場合の事業影響分析に基づいた計画立案、マニュアルがきちんと運用され、訓練されているか、などといった管理と改善を支援するシステムです。システム導入だけでなく、会社としてのBCPの考え方の策定コンサルティング、社員の教育を行ってBCPの文化を導入するそうです。
このようなシステムの開発は政府の要請だったのか、それとも必要を感じて独自に開発したのか、という質問がありました。2008年に韓国の国家安全保障会議が監査法人などと共同研究で危機管理の指針を作り、法的支援も行ったそうですが、サムソン電子やLG電子のようなグローバル企業は、法的支援がなくても、必要性を感じてこのようなシステムを開発したそうです。また、事例では金融機関での導入が先行しているようですが、韓国でも日本と同じく金融機関への行政指導が強いので、導入が進んでいるのだそうです。

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GHソリューション 朴さん

icon-check-square-o TOBESOFT:XPLATFORM

RIA(Rich Internet Application)開発基盤。ワンソース・マルチユースで、PC用に作ったUIを、モバイル端末などに展開します。
ユーザーインターフェイス(UI)デザインというと、日本では見た目にきれいな画面デザインと考えられがちで「社内システムにUIデザインを入れるなんて、贅沢だ」と考えらていたそうですが、実は業務の生産性を上げるデザイン、無駄な操作のない、迷わないデザインが、優れたUIデザインであり、UIで企業の競争力に差が出るという考え方が、最近になって日本のユーザーにも浸透してきているそうです。
「日本ではメインフレームをそのままコンバートしたり、クライアントサーバーシステムのWeb化をするときに、画面をそのまま移行する。そうすると仕事のやり方が変わらない。うまくやれば1時間かかった仕事が40分になるかもしれないのに。変わらないのはとてももったいないこと。」という指摘がありました。

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TOBESOFT 崔さん

icon-check-square-o ディスカッション

その後のディスカッションでは、さまざまな話が飛び出しました。

韓国にはユーザー会がない?

日本ではよくある特定ベンダーや特定製品のユーザー会ですが、韓国にはないそうです。日本ではユーザー同士でコミュニケーションして情報交換が活発。韓国では、企業は企業、ユーザーはユーザー、と割り切ったドライな関係だそうです。他の人のやっていることを真似するより、ユニークなことを目指すのが、韓国のユーザー。自分のやったこと、自分のシステムを、競合会社に知らせたがらない。
日本の場合、ベンダー側が次の製品のためにユーザー会をもつ場合もありますが、韓国の場合はユーザー会として要望をまとめてソフトウェア会社に伝える前に、直接、個別に「こうして!」と言うそうです。自分が使いやすいものを手にするために我慢しない。「プロコンシューマ」という言葉が一般化しており、韓国の消費者はグローバルなメーカーのテストユーザーとして最適なのだとか。

日本のユーザーは「決める」のではなく「決まるまで待つ」

韓国のお客様は、営業して半年以内に決めてくれる。不採用の場合も判断が早い。「変な時間」がかからない。日本のユーザーは、自分の立場で決定する責任を持とうとしない。みんなに意見を聞いて回ったり、「会社は大丈夫ですか?倒産したらどうなるの?」というリスクの確認をまず最初にしたり、「導入実績はあるの?」と聞かれる。韓国ユーザーも導入実績を聞きたがるが、日本の方が厳しい。導入を「決める」のではなく、社内の雰囲気が「決まるまで待つ」のが日本のユーザーだ、という耳の痛い話もありました。

BMT(Benchmarking Test)

民間企業で慣習的に行われている製品選定のしくみ。
ある特定の案件に対して複数のベンダーが行う、POCのようなもの。同じ場所で、同じ条件で、ユーザーが「これを作って」といったものをベンダーが作ってテストし、報告書を出すしくみだそうです。以前は価格が安ければ採用されたりしたけれど、品質の問題が出てきたため、「価格」「便利さ」「性能」などの軸が設けられたそうです。価格は最低値段を決めるので、それ以上安くしても意味がない。ベンチャーでも、そのテストで勝てば採用してもらえるのだとか。
日本では、導入が決まってからPOCをするし、ユーザーがお金を払わないといけない。韓国は「とる気がないならいいよ」といって、BMTにお金は払わない。納入側がコスト負担するそうです。

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今回はまた、韓国のベンチャー企業育成の政策について、同じく韓国で電子政府のシステムなどを開発しているUnion&ECの李さんが情報を提供してくださいました。

韓国IT企業7600社のうち、ほとんどが中小企業。パッケージメーカーは27%、ITサービスが73%。今の韓国のソフトウェア市場は、政府がリードして中小企業の収益性を確保し、育成してきた結果。さまざまな制度や規制が駆使されています。

  • GS(Good Software)認証:取得した企業は公共事業の入札で加算点がもらえる
  • ソフトウェア性能認証:ソフトウェアのパフォーマンスの認証で、これも公共事業の入札で優先購買される。
  • 性能保険:性能認証をうけたソフトウェアで性能の損害が発生したら、国が契約している保険会社から賠償がされる。
  • 購買者免責制度:性能保険で賠償されるようなソフトウェア購買をした公共事業の担当者でも、責任は問われない。
  • 中小企業の公共ビジネスへの参加を推進するために、10億ウォン(1.6億円)までのビジネスには、大手IT企業は参加できなかったが、このたびその上限を上げて、40億ウォン(3.6億)でも大手が参入できないようにした。
  • ソフトウェアの分離発注の義務化:公共システム発注のときには、ソフトウェアが4000~5000万円を超える場合は、ハードウェアとソフトウェアの金額を分けて発注することを義務化。大手がソフトウェア部分をダンピングして下請けにマイナス分を押しつけるようなことがないようにした。
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2015までに20%の公務員を在宅勤務(住居地に近いところにオフィスをおいて仕事をするスタイル)にするという方針も出ているそうで、韓国ビジネスマンの仕事スタイルも一気に変わりそうです。

これら国の政策があるとはいえ、ベンチャー企業にとってフェアな競争の環境が提供されているということであって、ユーザーが優遇されているわけではありません。たくさんある選択肢の中から、やりたいことを品質高く実現できるものを、自ら責任をもって選ぶために、BMTなどをしっかり行い、厳しいけれど公平な判断をしていく。「システムイニシアティブ」をしっかりとっているユーザーと、その要求レベルに応える努力を続けるベンチャー企業の姿が見えた例会でした。

吉田太栄(システムイニシアティブ研究会事務局)

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